みなさんこんにちは!
今回はVBT(Velocity Based Training=速度基準トレーニング)の効果をしっかり出したいと考えているアスリートやトレーニー必見の記事になります。
近年、多くのアスリートやトレーニーが取り入れ始めている「VBT」。
以前の記事では、その基礎知識やメリット・デメリットについて解説しました。
しかし、VBTの本当の価値は——“正しく使えるかどうか”で決まります。
同じ重量でも、速度の意識ひとつでトレーニング刺激は大きく変化します。
計測デバイスをただ無闇に使うだけでは、筋力向上やパフォーマンスアップにつながらないこともあります。
そこで今回は、“VBTの効果を最大化するための「正しいやり方」”に徹底的にフォーカス!
速度の基準設定、セット間の判断基準、重量調整の考え方など、実践でそのまま使えるノウハウを詳しく解説します。
hiro
今回の記事はこんな人にオススメ!
- VBTの実践的な知識が欲しい
- VBTの実施を検討している
- スポーツにつながる筋トレをしたい
VBT(Velocity Based Training)とは?実践前の基本をおさらい
この記事は実践編になるので、基本のおさらいは軽くしておきます。
トレーニング強度を“速度”で管理する方法
一般的なトレーニングは、強度設定を「重さ・回数・頻度」などで決めます。
VBTは重さではなく速度を基準にして強度設定をする方法です。
ちなみに速度(Velocity)は、速さ(Speed)とは違います。
速さは単純に「物体が移動した距離」なのに対して、速度は「物体が移動した距離と方向」と定義されています。
バーベルを担いでスクワットをしたら、バーベルを“上に向けて”挙上したことになるので、速度がつきます。
物理学になりますが、チカラの発揮を表す超有名な公式に「F=mα」があります。
地球上の生体がどれだけチカラを発揮したかは、質量の重さと加速度を掛け合わせれば導くことができます。
つまり、「物体をどれだけ速く動かしたか」によってトレーニング効果が変わるということです。
スポーツ選手にとってメリットがたくさん
スポーツ活動中のチカラの発揮は、かなり短い時間内で行なっています。
走るときには、片足でわずか0.2〜0.08秒で地面に接地しています。
わずかな時間内で最大限のチカラを発揮させるには、チカラの立ち上がり=RFD(Rate Force Development)が大きくなければなりません。
VBTによって、スポーツのパフォーマンスアップのために必要なRFDの向上をさせることができます。
さらに、筋力トレーニングで往年使われているRM法と比較した研究では、筋力&筋肥大の効果ではVBTと大きな差がないと報告しています。
つまり、VBTは重さを重視した%1RM法と同等の効果を得ることができるというわけです。
ベンチプレスを100kg以上でやっても、50kgで最大速度でやっても同じということです!
専用デバイスが必要(デメリット)
VBTのデメリットの一つとして、専用のデバイスを用意しなければならないことが挙げられます。
今は一般のスポーツジムでも購入できるようになりましたが、高価なものがほとんどなので手が出しづらいかもしれません。
最低価格で4〜5万くらい、高価なものになると50万ほどかかります…ちょっと気が引けますね。
VBTの基礎は別の記事に掲載してありますので、こちらもチェックしてみてください!
目的別の最適な速度ゾーン
VBTは、目的に応じて速度を設定します。
まずはわかりやすく表をみてもらいましょう。

最大筋力
自分の筋肉が発揮できる単純な最大値であり、筋線維の動員数・筋横断面積・神経筋系の改善が期待できます。
最大筋力が高いほど、ジャンプ・スプリント・方向転換の基礎となる“土台”の力が強くなるため、あらゆるパフォーマンスの向上に関わります。
さらに、最大筋力の向上は関節の支持力を強固にするため、ジャンプトレーニングやプレーヤー同士のコンタクトといった高負荷の動作中でも関節を安定させてくれます。
そのため、ケガ予防にもつながります。
- 挙上速度:0.3〜0.5m/s
- 重量の目安:80〜95%1RM
- スクワット=0.32〜0.56m/s
- デッドリフト=0.24〜0.53m/s
- ベンチプレス=0.18〜0.46m/s
- パワークリーン=2.0m/s程度
パワー
パワーの説明は先述した通り、F=mαなので加速度が関係します。
重たいものをいかに速く動かすことができるかが、地球上で生きる生体の力強さにつながります。
この領域での筋力発揮が、スポーツ動作中にもっとも近い状態と言われています。
- 挙上速度:0.6〜0.9m/s
- 重量の目安:50〜70%1RM
- スクワット=0.68〜0.93m/s
- デッドリフト=0.66〜0.90m/s
- ベンチプレス=0.61〜0.94m/s
- パワークリーン=2.0〜2.4m/s
スピード
スピードを高めたい場合は、軽い重量を「限界まで速く動かす」ことが最も重要です。
この領域の主な目的は、筋力そのものよりも、“力をどれだけ速く発揮できるか”(RFD:Rate of Force Development)を鍛えることにあります。
スプリンターやジャンパー、球技選手など、爆発的な動きや瞬間的な加速が必要な競技では、この速度ゾーンのトレーニングがパフォーマンスに直結します。
- 挙上速度:0.9m/s以上
- 重量の目安:20〜40%1RM
- スクワット=1.05〜1.30m/s
- デッドリフト=0.66〜0.90m/s
- ベンチプレス=0.61〜0.94m/s
パワー持久力
パワー持久力とは、「力の発揮をどれだけ長く続けることができるか」という意味があります。
単純な持久力(心肺機能)ではなく、高い筋力発揮を持続的に行う状態です。
わかりやすい例は、フットボール系やバスケットボールなどにみられるインターバル形式に何回もダッシュする能力が該当します。
パワー持久力を向上させるには、後述する速度低下率(VLC)を設定します。
VLCを30%に設定し、なおかつ6週間以上トレーニングを継続することで、パワー持久力の向上が見込まれます。
スポーツ種目別に速度を考える必要はある?
スポーツにはそれぞれ特性があり、必要な体力要素は異なります。
しかし、VBTの観点から考えると、スポーツをするためには全てのトレーニング様式を実践することを基本とし、時期によって変化させることが必要と考えられます。
どんなスポーツでも、最大筋力・パワー・スピードは必要です。
その中で大きな違いと言えば、“試合があるか無いか”です。
試合期であれば実践的なスポーツ動作に直結するパワーやスピードの領域を伸ばし、練習期であれば次のシーズンに向けて土台となる最大筋力の領域を伸ばします。
どのように期分けをすればいいかは、後述するピリオダイゼーションで詳しく扱います。
シーズンごとの速度設定
ピリオダイゼーションとは?
ピリオダイゼーションとは、年間を通してトレーニングの目的や負荷を計画的に変化させ、ピークパフォーマンスを作る方法です。
強度・量・重点領域(最大筋力/パワー/スピード)を時期ごとに調整することで、効率よく成長しながら疲労や停滞を防ぐことができます。
下の表は、MLBのとあるチームが実際に設定している計画表です。

このようなプロ選手も実践している方法で、皆さんも年間の計画を立ててみるのも良いかと思います。
試合期(オンシーズン)
試合期は、パワーやスピードを最大限にする時期です。
試合期の中でも特に重要な大会に合わせて、最大スピードを高めるように設定します。
練習期(オフシーズン)
練習期は、主に最大筋力の向上を目的としながら、パワー発揮を目指していきます。
試合期よりも扱う重量を増やし、挙上スピードを高めるように設定します。
トレーニング現場での活用術
VBT最大のメリット「速度低下率(VLC)」を活用しよう
VBTを使ってトレーニングをする最大のメリットが、“速度低下率”=Velocity Loss Cutoff(VLC)を計測しながらトレーニングできるというところです。
速度低下率とは、セット間の最大挙上スピードよりどれだけ低下しているかをパーセントで表す数値です。
スクワットを5回行なったとき、3レップ目に最大挙上スピードが発揮できた後、4〜5レップ目は3レップ目の80%しか発揮できなかったとすると、低下率は20%と計測されます。
速度低下率の違いによって、トレーニング効果も変わります。
見た目や主観では判断できない領域なので、デバイスを使って計測する最大のメリットと言えます。
目的によって速度低下率の変化に応じてレップ数を設定することで、%1RM法と同等かそれ以上の効果が期待できます。
設定した低下率に達したところで、レップを終了させます。
以下に目的別の速度低下率をまとめましたので、チェックしてみましょう!
- 最大筋力…VLC20%まで
- パワー…VLC20〜40%まで
- スピード…VLC5〜10%まで
初心者に対する速度設定
VBT初心者の場合は、今まで馴染みのある%1RMの重量と比例する挙上スピードを設定します。
最大筋力・パワー・スピードといった伸ばしたい要素に応じて、設定してみましょう。
先ほど載せた「目的別の最適な速度ゾーン」を参考にして、速度を設定すると良いです。
トレーニングの最初にやること
VBTのメリットの一つに、「その日のコンディションに合わせて最適な負荷量を設定できる」という点があります。
従来の%1RM法では、一定の期間内であれば基本的に重さや回数を変化させることはしません。
前回のトレーニング時にはベンチプレス100kgで行った場合は、今回も100kgを目指すという具合です。
しかし、選手は人間なので、日々のコンディションは変化します。
休み明けのフレッシュな時や、キツい練習の直後といった状況でも、重さを変えないままやってしまうと、オーバーワークになりケガやパフォーマンスダウンにつながります。
VBTは、挙上速度や速度低下率を設定することで、その日はどこまでできるか?という限界値を科学的に決めることができます。
トレーニング前にやるべき設定を以下にまとめたので、チェックしてみましょう!
- ウォーミングアップで最大速度が出る重さを見つける
- 目的に合わせて速度の上限&下限と、VLC%を設定する
- 1セット目を開始し、VLC%を下回ったらレップ終了
- 最終セットまで行い、結果をフィードバック
- 速度の下限を下回らなかったら、次回は負荷を4〜5%増加させる
フィードバック
VBTにおけるフィードバックは、デバイスにより様々な情報を瞬時に見ることができます。
スマホで撮影しながら計測ができるので、フォームチェックも同時に実施可能です。
スクワットを実際に計測した画面を見てみましょう。






レップごとに速度やパワー発揮のグラフが作成され、どのタイミングで最大値が出ているかまでわかります。
大学の研究レベルの計測が数万円で実現可能なのは、とても驚きですね!
トレーナーがいる場合は、数値を口頭で読み上げてレップ毎にフィードバックも可能です。
また、トレーニング履歴も残せるので、以前やった同種目のトレーニング結果との比較もできます。
フィードバックは自分で設定可能ですが、項目が多数あります。
研究レベルで測定する場合を除いて、一般的に使える項目をまとめました。
- ピークパワー
- ピーク速度
- 速度低下率
- RFD
- 平均推進速度
まとめ
今回はVBTを実施するときに必要な知識をお伝えしました。
VBTも他のトレーニングや練習と同様に、習慣づけることが大切です。
たった数回やって効果がはっきりと出るわけではありません。
日々のトレーニングの中にしっかり落とし込んで、自分のモノにしていきましょう!
最後に、今回の記事のポイントをまとめましたので、チェックしてみてください!
- トレーニングの目的(最大筋力・パワー・スピード)に応じて、速度を設定する
- 大会や目標に向けてピリオダイゼーションを行う
- 速度低下率(VLC)による負荷のコントロールをすることで効果を高められる
- トレーニング開始前に速度の上限&下限とVLC%を設定する
参考文献
VBT トレーニングの効果は「速度」が決める 長谷川 裕著 2021.7.19
